シマ吹くろう心感覚の森

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幻のオカリナ(オリジナル物語)

幻のオカリナ

~癒しの音色がクリスマス聖夜に響く~

 

この物語は、人口5万人ほどの小さな島国の出来事である。雪が降らないこの街では、固く澄みきった空気と街を歩く人々の足がわずかに早くなることで、間もなく新しい年を迎える時季になったと感じることができる。

街の人々はみんな日頃から明るく挨拶や世間話で冗談を言い合って盛り上がる気さくな暮らしをしていた。

その街に仲の良い姉弟がいた。姉の聖未(キヨミ)は12歳、弟の証士(アカシ)は8歳。彼らは熱心なクリスチャンの家庭で育った。

街がクリスマスと年越しを迎えるためか多くの人や車の動きで忙しそうに映るころである。

姉弟が学校を終えた帰り道、楽しげに会話を弾ませながら歩いていると、一人の老人が道の片隅でうずくまっているのを見つけた。

恐る恐る近づいて見ると、白髪で髭をたくわえたその老人は、住宅の壁に肩をよせ座り込み頭が地面に付きそうになるほど項垂れていた。脇の下には両手の平にちょうど乗るほどの木箱を大切そうに抱いていた。

「お爺さん!お爺さん!」

なんとなく親しみを感じさせるその老人の様子がとても気になった姉の聖未は、肩を軽くトントンしながら呼んでみた。

持ち歩いて何年も経っているのがすぐにわかるほど角が丸くなり手垢で黒光りした木箱を抱き直すと、その老人は顔を上げて声を絞り出すように弱々しく答えた。

「君たちの家で少し休ませてもらえると有り難いのじゃが」

家まで50メートルほどだったので、弟の証士に両親を呼ぶように急いで走らせた。話を聞いた父親が来て老人を支えながら家に連れて帰った。

その老人は、疲労と空腹で気力も体力も尽き果てており、ホッとしたのかソファーですぐに寝てしまった。

その老人はまる一日をぐっすり寝ていた。母親が仕度する夕飯の匂いに誘われたのか老人が目を覚ました。家族みんなが老人のそばに集まった。

老人は恥ずかしそうに笑みを浮かべると目を大きく開いて言った。

「ありがとう。本当にありがとう。だがもう一つ頼みます。一杯の水と何かすぐに食べれる物ありませんか?」

夕食の準備も途中だったので、先ずは温かい味噌汁と炊きあがったばかりの御飯を与えた。老人はそれをあっという間に食べると顔色も良くなり自分のことを話しだした。

その老人はオカリナを演奏しながら旅をしていると話した。オカリナの優しい音色を聴いて世の中の人が笑顔になり元気になってくれるのがとても嬉しいと熱く語った。

そして子供たちを見ると「そうだ!君たちにオカリナを吹いて上げよう♪」と言って大切に抱いていた木箱を膝の上に置いた。蓋を開けると、中にはいかにも年季が入った古びた茶色いオカリナが二つ入っていた。

その内の一つを手に取ると子供たちの前に立って吹きはじめた。その瞬間、部屋いっぱいにオカリナの美しい音色が広がった。子供達もニコニコしながら嬉しそうに聴いていた。

姉の聖未と弟の証士は、オカリナを見るのも音色を聴くのも初めてだった。二人はこの楽器に不思議な魅力を感じた。丸るみを感じさせる優しいオカリナの音色は子供たちの心を虜にした。

その後も老人は体力が回復するまでこの家で過ごした。三日目の晩がくると老人は言った。

「本当にお世話になりました。お礼に私の最も大切なこの二つのオカリナを子供たちに差し上げよう。このオカリナは聖なるオカリナと言い吹く者の心が素直に音色で表されるのじゃ。私の命を救ってくれた感謝の気持ちです。」

姉弟は飛び跳ねて喜んだ!

老人は喜ぶ二人に向って手で静止する仕草をしながら優しい声で「まだちょっと聞いておくれ」と言うと続きを話した。

「大切なことが一つあるんだ! このオカリナを粗末にしたり悪い目的で使ったりするとその者に災いがあることを覚えておくんだよ」

両親は老人を気遣って言った。

「それではあなたが困るのではありませんか。そんな事しないで下さい。」

老人は言った。

「聖なるオカリナは、心の清い者に受け継がれて来たのじゃ。もうわしは老じゃからのぉ」

老人はそう言うと何も言わずにドアを開けクリスマスイルミネーションが輝く街に消えて行った。ちょうどその時、聖夜を祝う教会の鐘の音が街中に響きわたった。

 

数年後、街のイベントでオカリナ演奏する姉弟の姿があった。二人が奏でるオカリナの音色は集まった人々に笑顔と希望を与えていた。誰もが彼らのオカリナの音色に魅了されていた。

オカリナを演奏する二人の子供の噂はあっという間に街中に広まり、沢山の演奏オファーが入るようになった。

子供達の両親もオカリナで活躍する我が子を嬉しく思っていた。

両親は子供が寝静まった時、話していた。

オカリナを吹く子供達が短い期間でどんどん上達し、美しい音色を奏でる姿を見て “聖なるオカリナの言い伝えは真実で特別な力を持ったオカリナに違いない” と確信していた。

弟の証士が14歳のある日、大きなオカリナコンクールへ出場することになった。これまでは他のオカリナ奏者と出会う機会も少なかったが、証士は他の演奏者が持っている色とりどりの綺麗で素敵なオカリナを見て羨ましく思った。もっと高級なオカリナで吹きたいと思った。

このコンクールの優勝賞金は10万円である。証士は優勝する自信があった。絶対に優勝して、その賞金でもっと綺麗で素敵なオカリナを買えると思った。

コンクールが始まり証士の出番になった。この時、証士の心に気負いがあった。演奏中も賞金を手に入れ好きなオカリナを買うことしか心になかった。

結果は全体の5位で賞金を手に入れることは出来なかった。証士は思った。やはり高級なオカリナにはかなわない。こんな使い古しの地味なオカリナではダメだ。

証士は望み通りに結果が出せなかったのが、オカリナが古く性能に乏しかったからだと考えた。

オカリナを始めてそれほど年数も経ってないうえ、習って特別な練習を積み重ねた経験もない証士が5位に入れたのは奇跡的なことだった。入賞できたのは聖なるオカリナの助けであると、この時の証士は気付いていなかった。

さらに証士は悪知恵をもって欲望を叶えようとした。貧しい家とはいえこの古びた陶器のオカリナが壊れてしまえば、もっと新しく高価で綺麗なオカリナを買ってもらえると思ったのだ。

コンクールが終わって三日が過ぎた頃、証士はオカリナが入ったケースを持ったとき蓋が開くように意図的に細工した。

両親の見送りの中、いつも練習しているホールに出掛けようと証士がケースの持ち手を持った瞬間、蓋が開いてオカリナは硬い床の上に落ちて粉々に割れてしまったのだ。

両親は大変なことになったととても慌て、ひどく動揺した。聖なるオカリナの一つを失いとても哀しんだ。

弟の証士は、壊れたオカリナをさほど気にもせず「あ〜、やっちゃった」と言いながら、心では上手く行ったと思いその場に立っていた。

悲しみを堪えながら破片を拾う母親を見ながら証士は考えていた。明日にでも新しいオカリナを買ってもらうように話そう。

次の朝、証士が起きると直ぐに異変に気づいた。目がまったく見えないのである。一生懸命に目を開けたり手でこすってみるが、光を感じることが出来なくなっていた。

証士は凄く動揺していた。「なぜ? どうしてこんなことに?」そう思った瞬間、証士はハッと気付いたのである。老人が話していたこと。老人が大切にしていた聖なるオカリナを粗末にして壊してしまったことを。

弟の証士は、両親と姉の聖未に自分がしてしまった過ちを正直に話した。医者にも診てもらったが原因はわからなかった。

両親はとっても悲しかったが証士のしたことを責めたりしなかった。息子の目が見えなくなり楽譜も見れずオカリナも吹けなくなったことを受け入れるしかなかったのである。

何もかもが真っ暗で光を見ることが出来なくなった証士は、ずーと部屋に閉じこもり一歩も外に出ようとしなかった。好きな音楽を聴くこともなくなった。そんな日が一年以上続いた。

ある日、証士は窓の外から聞こえる人々の話し声や笑い声が気になるようになった。そして以前、姉の聖未と一緒に多くの人々の前でオカリナを吹いていたこと、そこで聴いてくれたみんなの笑顔を思い出していた。

目が見えなくてもオカリナは吹けるだろうか?

以前のようにみんなの心が希望で満たされる音色が出せるだろうか?

証士は今の思いを両親に打ち明けた。オカリナを吹きたいと。。。

両親は証士がやっと心を開いてくれたことが嬉しかった。姉の聖未もそれを聞き、また以前のように弟の証士と一緒にオカリナの演奏が出来るようになると喜んだ。

次の日、姉の聖未と父親は家にあるお金を全部持ってオカリナを探しに出かけた。楽器屋さんに行くと一番高いオカリナを買い求め証士の待つ家に戻った。きっと証士はこれで元気になってくれると家族みんなが思っていた。

弟の証士は、姉の聖未から手渡されたオカリナを恐る恐る手に取った。一年以上も触れていなかったオカリナの手触りや重さに感動して証士は体を震わせて泣いた。

手に持ったオカリナはとても美しく綺麗なものだが、目が見えない証士はそれを知ることがなかった。

姉の聖未がいつも二人で吹いていた曲を吹き始めた。オカリナの音色が誰よりも自分を元気にしてくれていた事に証士は気づいた。

証士は震える唇をオカリナに寄せて吹き始めた。ゆっくりと息を合わせながら二人で奏でるオカリナの素朴な音色が部屋いっぱいに広がり始めた。

証士はオカリナが大好きだと心の底から思った。二人でオカリナを吹く姿を見て両親の目から涙が溢れた。

目で楽譜を追えない証士は耳に残る音が頼り。姉の聖未に助けてもらいながら数曲のメロディーパートを吹けるようになるのはそう難しくなかった。二人で練習を重ねた。

ある日、街で開かれるサマーフェスティバルの主催者が、二人の練習再開の噂を聞きつけオファーをして来た。証士は久しぶりのオファーに心から嬉しかった。

そして心に誓った。自分のためでなく、周りのみんなのためにオカリナを吹こう。オカリナを奏でる音色で一人でも心が癒やされ元気になるのであれば何よりも嬉しいと気づいたのだった。

数日後、街はサマーフェスティバルで賑わっていた。街の中心にあるステージには大勢の人々が集まっていた。待ちに待った姉弟が吹くオカリナの演奏を聴くためである。

姉の聖未が証士の手を取り二人はゆっくりとステージに上がった。拍手が湧き上がった。声援も聞こえた。みんなが待っていたのである。

証士は恥ずかしく思えた。愚かな考えで聖なるオカリナを壊してしまって改めて悔いたのであった。

演奏予定の5曲が無事に終わった。姉の聖未のリードもあり証士の久しぶりのステージは上手くいった。しかし、二人は気づいていた。姉の聖未も、弟の証士自身も、以前とまったく違う演奏だったとわかっていた。

証士は自分が吹くオカリナの音色が姉の音色や観客の心とどうしても調和しなかったことにショックを受けていた。二人の音色が共鳴し合いその優しい音色が会場全体を包み込む以前のような感覚が感じられなかったのである。

以前の演奏は疑いなく聖なるオカリナの持つ力だった。

証士は本当にとんでもないことをしてしまったんだと、悔やんでも悔やみ切れぬ思いに打ちひしがれていた。

その晩、証士はひざまずき神様に心から悔いる思いで祈りを捧げた。

これから大好きなオカリナとどうやって向き合って生きて行けば良いか何度も何度も尋ね求めた。

さらに次の日の晩も同じように祈った。

もう以前のように人々の心に届くオカリナの演奏はできないのかと思いつめた証士は途方にくれていた。

証士は道で倒れていた老人のことを思い出していた。老人は一番大切にしていた聖なるオカリナを私達姉弟にくれたのだ。老人は今どうしてるだろう。元気にしてるだろうか?

三日目の晩も悔いる思いで何をして生きて行けば良いか神様に祈った。するとあの時の老人の顔が目の前に浮かび何かを話し掛けている。証士は老人の口元に集中した。

「心配するでないぞ 元気を出しなさい あなたは人々に届く音色を失ってはいないぞ ただ それに気付いていないだけじゃ」

証士はハッキリと聞こえる老人の声に驚いたが、とても温かい心に満たされていた。

「証士くん 以前、私にしてくれたように今君に出来る愛を周りの人々に示すのじゃ。目は見えなくても口があり、耳があり、手も使え、自由に動く体と想像力があるじゃろ」

「今の君自身の可能性を信じるのじゃ 心が真に清められたとき、君は幻のオカリナを見出すじゃろう」

そう言うと老人はスーっと消えた。

証士は本当にそうだ! その通りだ!! 他にも人々のために出来ることがいっぱいある。

すると証士の心はとても軽くなった。

翌朝、証士は手探りで窓のところまで歩いて外の空気と太陽の日差しを感じていた。体全体に優しくゆっくりと力が湧いてきた。目は見えなくても心は希望の光で明るく感じていた。

まず、自分のことは何でも自分で出来るようになろうと決めた。また、人にあったら笑顔で挨拶できるよね。そうそう助けてくれたら「有難う♪」を心を込めて言おう。まだある。まだある。悩みを抱えた人の話を聞いてあげるのって喜ぶかなぁ。。。

証士は、出来ることを色々想像してると楽しくわくわくして来た。自分の元気な姿で周りの人も元気になってくれると良いなぁ〜と。

この日から証士は周囲の人が見て驚くほどに変わったのである。

証士は自分で出来ることはいつも一人でこなせるようになった。家の中のことはもちろん、外に出る時も知っている道は一人でも大丈夫。

声を掛けてくれる人には、そちらの方に顔を向けとびっきりの笑顔を振り舞いた。助けてくれる人には、明るくハッキリと心を込めて感謝の気持ちを伝えた。

初めは、この様に振る舞うことが疲れると感じたり、体調によっては無理してることもあったが、証士は周囲の人が自分と関わるときに少しでも良い気持ちを感じて元気になって欲しいと心から思っていたので頑張れた。

今はそんな振る舞いが証士の喜びとなっていた。そして毎日そのように努力していたら、いつの間にか自然な証士の姿と行いになって出会う人々が明るく元気な気持ちになれたのである。

 

証士が障害者の集う学校に移って一年半が経った。目が見えない生活にも自信がつき、証士の明るい性格で友達もたくさん出来てきた。

16歳の秋ごろ、仲の良い友達の一人が「ホーホー」と音を出して遊んでいた。

「今の、何の音?」

「さー、何でしょう? 当ててみな。クイズ!」

「楽器じゃ無いね。小さなビンのような、ジュースの空き缶かなぁ〜。」

「ブーゥ。違いま〜す。ヒントは体の一部を使って鳴ってます。」

「そうか。わかった。手だろう、手を合わせて吹いた!」

「正解!」

二人は楽しそうに笑った。

証士の家族はクリスチャンで寝る前の祈りは欠かさない。

この夜も証士がいつものように両手を合わせ熱心に祈りを捧げたあと、ふと思い出した。友達はどうやって音を出したんだろう。自分も出来るかなぁ。。。

証士は、布団に入り寝ながら両手を合わせて少し吹いたりしてるうちに眠ってしまった。

夢心地の証士に「やーぁ証士くん。私が前に話した幻のオカリナを覚えているかな。」

目の前にあの時の老人の顔が現れた。

「君は幻のオカリナを得るにふさわしい者となったぞ。君のその手が幻のオカリナなんじゃ。」

「君が心で感じる旋律は、美しく優しい音色となり君の手から響きわたるじゃろう。」

「そして君の清い心が温かい愛の力となって聴く人々の心に満たされるじゃろう。」

そう言い終えるとまたスーっと消えた。

証士は朝に目が覚めると直ぐに自分の手をお祈りのように顔の前で組んでオカリナを奏でるようなイメージで吹いてみた。

「ホー♪ ホー♪」と優しい音が出た。手の内側が振動して共鳴したのを感じた。

証士は、目が見えないことで誰よりも耳と手と心に集中できる。何度か音を出すうちに手の空洞を変えて音階も出せるようになった。

証士は、これが幻のオカリナなんだと確信した。また、演奏できる! 姉の聖未と一緒に演奏できる♪ 希望の光が証士の心をいっぱいに満たした。

証士は練習を重ねた。証士が奏でる幻のオカリナの優しく透き通った音色は、姉の聖未が吹く聖なるオカリナと美しく調和した。

証士が18歳になったクリスマスの夜、街のある教会に姉弟は立っていた。幻のオカリナを初めて人々の前で奏でるときがきたのである。

クリスマス賛美歌を奏でるハープの伴奏が教会堂に響き出した。前奏に耳を傾けたのち姉弟の演奏が始まった。

手を組んで音を奏でる証士の演奏に人々は驚き少しザワついたがそれもあっと言う間に二人の演奏が消しさり人々を包み込んだ。

二人の奏でるクリスマス賛美歌の音色が教会堂に大きく広がった。幻のオカリナの優しい音色は、その特徴でもある広い音域とレガート演奏によって姉の吹く聖なるオカリナの音色と聴く人々の心をも優しく包み込んだ。

証士は自身の過ちにより目で感じる光を失ってしまったが、周りの人々に愛を示すことで、心に希望の光を感じることが出来ると学んだ。

証士は、いつもどんな時も幸せな気持ちでいられた。オカリナの優しい音色や周囲の人々に精一杯の愛を示す喜びを教えてくれた老人との出会いに心から感謝した。

その後も二人の演奏は街の人々の心を優しく元気にして永く親しまれていた。

証士が奏でる幻のオカリナは、その素朴で透き通った音色で聴いた者の病をも癒すと伝えられるようになった。

毎年、この街のクリスマス聖夜は二人の音色と共にイエス様の大きな愛で包まれれるようになったのである。

どの世代にも共通の変わらぬ大切な学びがある。それを伝えたい。愛する人々に。。。